元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
さっきまで和やかだったテーブルはあっという間に険悪な雰囲気に包まれ、いたたまれなくなった私が帰ろうとしたとき。
「ねえ、ツグミ」
ずっと傍観者のように黙っていたライヒシュタット公が口を開いた。
顔を向けた私の瞳に映ったのは、天使のように美しい顔に挑戦的な笑みを浮かべる彼の姿。そう、それはまるで世界の頂点に立つことを確信した英雄のような。
「僕を解き放ってくれるならば、あんたにいいものを見せてあげるよ。稀代の英雄、ナポレオンの再来だ。――いや、僕はもっと高い空を飛ぶ。父が果たせなかったヨーロッパ統一だって、夢じゃない」
――この世界には、神に愛される英雄という存在がいる。
その者が自分の使命に目覚めるとき、世界は彼の足もとにひれ伏すしかないのだ。
「ぼ……僕は……」
なんと言われてもクレメンス様を裏切れない。そう言いたいのに喉が渇いたように貼りついて上手く声が出せない。
圧倒的な存在感に気圧されて、全身がゾクゾクと震える。彼のことは五年も前から知っているというのに、いつの間にこんなにも王者の風格を纏うようになっていたのだろう。
私の中で誰かが渇望している。この少年が翼を広げ世界の空に舞うところを見たいと。