元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
(――もしかしたら私は……彼を解き放つためにこの世界へ呼ばれたのかもしれない)
ふと、そんなこと思った。
彼が頭上に王冠を抱き、ヨーロッパを足もとにひれ伏せさせる。そのとき、彼の片腕として脇に控える自分の姿が瞼の裏によぎったような気がした。
……けれど。
「……っ、ク、クレメンス様を説得します。クレメンス様が納得してくださるかは分かりませんが、誠心誠意話し合います。それで駄目なら、あきらめてください。僕ができるのはそこまでです」
ライヒシュタット公の威光に圧倒されながらも、目を逸らさずに言った。
もし私がこの世界に呼ばれた理由が、ライヒシュタット公を王にするためだとしても。私に第二の人生を与えてくれたのはクレメンス様だ。
私は私の意思で生きる。この世界で、自分で考えて選択して生きたい。
「僕は、クレメンス様を貶めたり傷つけたりするようなことはしません。絶対に」
私とライヒシュタット公はしばらくお互い視線をぶつけ合った。張り詰めたような沈黙が流れ、やがて眼を逸らしたのは彼の方だった。
「分かったよ。好きにしな」
呆れたように言って、ライヒシュタット公は手元のクッキーをひとつ口に放り込むと椅子の背凭れに気怠そうに寄り掛かった。