元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
父を奪われ母を奪われ王宮に閉じ込められ続けた鷲の子は、同じ手に今度は親友を奪われたのだ。彼が本能的な絶望を感じるのも無理はない。
ライヒシュタット公は体調を崩しやすくなり、頻繁に咳き込むことが増えるようになった。覇気をなくした彼の姿からは、オランジェリーで圧倒されたような威光はもはや感じられない。
それでも、ゾフィー大公妃はあきらめなかった。
国王への扉が閉ざされたとしても軍人の道があると、彼女はライヒシュタット公に説いた。
ハプスブルク家の男子は皆、最初の軍務はチェコのプラハで勤務することが決まっている。
これは受け継がれてきた伝統で例外はなく、まもなく十七歳になるライヒシュタット公にもそれが課されるはずだった。
「とにかくオーストリアを出ることが大切よ。〝M〟の手が届かない場所で、あなたは軍人として活躍していくの。そうよ、その方がずっとあなたのお父様に近いじゃない。あなたには軍事的な才能も、多くの兵士を従えられる魅力もあるわ。すぐに世界に名を轟かせる将官になるに決まってる。そして自分の力で得た栄誉を携えて、今度こそ王冠を戴くのよ」
ゾフィー大公妃がそう強く説得した甲斐があって、ライヒシュタット公も徐々に元気を取り戻すようになった。
「そうだね。用意された王座に座るより、その方がずっと父上に近い。僕は鷲の子なんだから、まずは父上のような立派な軍人になることから始めなくちゃ」
ライヒシュタット公は大尉就任以来、ずっとナポレオンのサーベルを肌身離さず帯刀している。
そのサーベルを掲げ「楽しみだな。兵営で兵士達と暮らすことにずっと憧れてたんだ」と微笑んだ彼の姿は、無邪気な夢を見る少年のようで――けれどもやっぱり、かつての威光は私には感じることができなかった。