元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
「メッテルニヒ!!」

ゾフィー大公妃が叫んだ。涙を浮かべた瞳に、ギラギラとした殺意を浮かべて。

「許さない! 絶対にあなたを許さない! 私はあなたを絶対に追放してやるわ!」

麗しい唇から飛び出した呪詛に、クレメンス様は「そんな物騒なことを仰ってはいけませんよ」と肩を竦めて苦笑する。

誰も、何も言えずにいたけれど、この場にいたすべての人が悟った瞬間だった。このオーストリアの覇者は、クレメンス・メッテルニヒだと。

そのとき。幽霊のように立ち尽くしていたライヒシュタット公の身体が、ゆっくりと膝から崩れ落ちていった。

「フランソワ!?」

うずくまったライヒシュタット公は激しく咳き込みだし、駆けつけたゾフィー大公妃や侍従達が慌てて彼の周りを取り囲む。

皆が驚き心配をする中、クレメンス様だけが冷静に口を開いた。

「そうそう。公爵閣下がプラハへ行けない理由がもうひとつ。我々は心配しているのですよ、……公爵閣下の肺の病を」

苦しそうに咳き込むライヒシュタット公の口もとを押さえる手から、赤い血が零れ落ちていくのが見えた。
 
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