元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
「プロケシュ少尉がウィーンを離れてから、ライヒシュタット公爵の体調は目に見えて悪化しています。まだ十七歳の彼にとって、生きる喜びや希望こそが生命力そのものなんです。お願いです! どうか、どうかあの子を――」
「ツグミ」
必死に訴える私の声を、夜の雨より冷たい響きが遮った。
「私は言ったはずだ。きみは行政官として道を誤りかけているから、もう彼らと接触するなと。どうして私の言うことを聞かなかった」
それはもはや怒りではなく敵意の籠められた声だった。
そのことがショックで恐ろしくて悲しくて、たまらず怯みそうになる。けれども。
「……っ、私は……あなたの秘書だけど、操り人形じゃない! 私は、私の意思で生きます! 私は……たとえ敬愛するあなたの命令であっても、間違っていることには従いません!」
足にギュッと力を籠めて、真っ向から言い返した。
クレメンス様は私にとって一番大切な人だ。ボスとしても恩人としても、ひとりの異性としても。嫌われることも今の関係を壊すことも、とても怖い。
でも、私は新しく歩み始めたこの人生に悔いを残すことの方がもっと嫌だ。
再び命尽きそうになったそのときに、「やれることはすべてやった」って満足して瞼を閉じたい。そして関わった全ての人達に、心からの感謝を抱いて人生を終えたいんだ。