元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
クレメンス様はゆっくりとこちらに向かって歩を進めて言う。
「宰相秘書官は今日で終わりだ。きみはきみの正義を貫くために戦えばいい。内相補佐官でも外交官でも事務総長でも私が推薦してやろう。ゾフィー大公妃もきみが私のもとを離れるとなれば、喜んで推薦してくれる。好きな行政職を選びたまえ。きみがもっとも自分の正義を遂行できる場所へ、行けばいい」
「……それって……」
私はこれ以上ないほど大きく目を瞠った。つまりはこれって……宰相秘書官をクビになった……ということだろうか。
この世界で有能なボスに尽くすことを生きがいとしてきた私にとって、それは絶望的なことだ。
真っ青な顔をして唇を震わせていると、目の前まで来たクレメンス様がそっと指を伸ばして私の頬を撫ぜた。
「そんな顔をするな。きみを見限った訳ではない、逆だ。私はきみに期待している。まるで見てきたように説くきみの正義が、私の正義をくだしヨーロッパに新しい風を吹かせられるのかどうか……私はこの目で見てみたい」
手袋越しの長くてしなやかな指が私の輪郭を辿り、軽く顎を掴む。上向かされた顔を、クレメンス様の青い瞳が覗き込んだ。
こんなときなのに、私は間近で見る彼の美しさに感動してしまう。
なんて深い色の瞳。底のない深海のようなその瞳は、ここじゃない遠い遠い場所を映しているみたいで。見つめ返しているうちに緊張より切なさが募っていく。