元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
そう捲し立てて、私はスルリとゲンツさんの横をすり抜けると駆け足で廊下を去っていった。
「この大馬鹿が! 俺はお前をそんな薄情者に育てた覚えはねえぞ! さっさと土下座して戻ってきやがれ!」
逃げていく私の背中にゲンツさんの喚く声がぶつけられて、ウンザリとする。……けれど。
(それってつまりは、謝ればまた一緒に働いてくれるってことだよね。あんなに怒ってるのに、突き放したり縁を切ったりはしないんだな……)
ゲンツさんの不器用な情深さが見え隠れして、胸が少し苦しくなる。
クレメンス様のもとを離れたことに後悔はない。けれどゲンツさんを怒らせ、きっとひどく落胆させたであろうことにはずっと申し訳なさが拭えなかった。
打って変わって、私が大公妃秘書官長になったことに大喜びしたのはライヒシュタット公爵だった。
「ようやく〝こっち側〟に来てくれたね、ツグミ。それが正しいと僕も思うよ。〝M〟の側にいたって面白い未来は見えやしない。これからは僕やゾフィーの時代になっていくんだから」
得意満面にそう言う彼の顔色は、吐血した日より随分と良くなっている。
あれからしばらくは安静の日々が続いたけれど、今ではベッドから起きて日常生活を営むくらいには元気になっていた。