元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
相手が手袋を拾ったら、決闘を受理したことになってしまう。
ゲンツさんの手が床に落ちた手袋に届こうとした瞬間、私は「だめぇっ!」と叫びながら、それを先に拾い上げた。
「うっ……!」
ゲンツさんに片腕で抱えられた姿勢のまま無理な体勢で手袋を拾ったものだから、折れている肋骨部分に激痛が走った。
そのまま痛みに顔を歪めて脱力してしまった私を見て、さすがに一触即発の空気が一変する。
「ツグミ! おい、大丈夫か!」
「部屋に運べ! すぐに医師を!」
痛みで薄れていく意識の中、クレメンス様とゲンツさんの心配そうな声が遠くに聞こえた。
目が覚めたときは、真夜中だった。
あれからだいぶ時間が経っているらしい。
見覚えのある天井を見て自室のベッドに運ばれたのだと理解した私は、そっと視線を横に向け、ベッド脇に座るクレメンス様の姿を見つけた。
「せっかく治りかけていたのに、またしばらく安静生活だそうだ。肺が傷つかなかっただけ、運がよかったと医師に言われたよ」
そう言ってクレメンス様は手にしたタオルで、私の額の汗を拭いてくれた。