元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
実際、私が司令部に来たとき最初に目に入った光景は、仲間と楽しそうに歓談しているライヒシュタット公の姿だった。

まるで部活に夢中の青春真っ盛りな高校生活のような、そんな輝きを感じる。

幼少の頃からずっとひとりぼっちで王宮に閉じ込められていた彼にしてみれば、ウィーン市内とはいえ初めて独り立ちし掴んだ自由と仲間なのだろう。楽しくて去りがたいに決まっている。

……けど、相変わらず体調は良いようには見えない。いや、相変わらずどころか先月の式典のときより、さらに痩せてしまっているような気がする。

肺の病にしてもペストにしても、とにかく事態は急で命に係わるのだ。今回ばかりは見逃す訳にはいかない。

「お気持ちは分かります。けど、閣下を心配されている皇帝陛下や大公妃殿下のお気持ちも察してください。特に大公妃殿下は毎日涙ぐんであなたが帰ってくることを神に祈っております。お気の毒で見ていられません」

ゾフィー大公妃の名を出すと、さすがにライヒシュタット公も表情を変えた。

「ゾフィーかぁ……。彼女、毎日手紙を寄越すんだよ。あんまり心配かけたくないとは思ってるんだけど……」

「ならば、とにかく一度戻りましょう。そうすればみんな安心します。ペストの流行が治まってからまた司令部に戻ればいいじゃないですか。司令部は逃げたりしませんよ」

ここぞとばかりに詰め寄ると、ライヒシュタット公はプッと吹き出して笑った。
 
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