元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
――けれど。

煌めくような生活と彼の気力とは裏腹に、命を蝕む病は着実に進行していた。

八月に入りようやくシェーンブルン宮殿にやって来たライヒシュタット公を診て、侍医はすぐに彼に安静を言い渡した。

そんなに悪くなっていたのかと、皇帝陛下もゾフィー大公妃も傅育官らも愕然とする。

粘膜がひどい炎症を起こしていたそうだ。よくこんな状態で普通どころか軍隊生活を送れたものだと、侍医は嘆くように呆れた。

そして、せめて今年いっぱいは静養するようにと強く忠告した。

一刻も早く司令部へ帰りたいライヒシュタット公はもちろんそれに反発し、シェーンブルンにいる間も剣の稽古をしたり馬に乗って公園に行ったりと、身体をなまらせないように鍛錬していた。それがますます自分の身体を追い詰めるとも知らずに。

ライヒシュタット公が王宮に戻ってきてから夏季休暇に入ろうと思っていたけれど、どうにも彼のことが心配な私はなかなかシェーンブルンから離れられないでいる。

バーデンでクレメンス様と過ごしたかったけれど、仕方がない。ライヒシュタット公のことも心配だけれど、そんな彼を見て不安そうにしているゾフィー大公妃の側にいてあげた方がいいと自分で判断したのだから。

そうして季節は秋になったけれど、ペストの流行は未だ収まらず皇帝一家はホーフブルクに戻れないでいた。
 
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