元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
***
意識を取り戻したとき、初めに耳に届いたのはパチパチと薪の爆ぜる音だった。
身体が温かいことを感じ、自分がどうやら生きていることを理解する。
(……死ななかったんだ、私)
そう感じたのも束の間、数々の違和感を覚え、私はやっぱりここが天国じゃないかと思い直した。
鼻腔をくすぐるのは薬臭い病院の匂いではなく、じゃ香のような甘い香り。耳に届くのは薪の爆ぜるような心地よい音と、遠くに聞こえる人の声。しかもそれはどうやら日本語じゃない。
(……英語? 違う、ドイツ語かな)
大学では外国語学科を専攻し、貿易会社に就職したこともあって、外国語はそこそこ堪能だ。耳をそばだてて意識を集中していると、遠くに聞こえる会話が何を言っているのか理解できた。
「旦那様は何を考えてらっしゃるのかしら。あんな得体のしれない者を屋敷に入れて」
「旦那様の考えることなんか、我々凡人に分かるはずないさ。だからこそあの方は、他に誰も成し得なかったヨーロッパをひとつにまとめあげることができたのだからな」
(……なんのこっちゃ?)
まるで演劇のような会話を聞いて、頭にクエスチョンマークが幾つも浮かぶ。