元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
以前調べて疑問に思っていたことだけれど、やはりクレメンス様は電子辞書に載っている年齢とは違うようだ。彼は今年で三十一歳だと言っていた。
それだけじゃない、去年没したはずのナポレオンがまだ生きてセント・ヘレナ島に幽閉されていたり、ゲンツさんはじめロシアの皇帝やイギリスの外相などこの時代にクレメンス様と共にウィーン体制を進めてきた人物たちも揃って年齢が違っている。皆、電子辞書に記載されているものより若いのだ。
そうなってくると当然彼らに纏わる歴史も少しずつ違ってくる。
クレメンス様は電子辞書によると既婚者となっている。一時期没落しかけたメッテルニヒ家を救うため、オーストリアの名門貴族と結婚し再興したのだとか。
けれどこの世界で彼は妻を娶ったことがないとされている。皆が口を揃えて「家柄もよく見目麗しいあんないい男がもったいない」と言っている。皇帝陛下にも何度も結婚を勧められたらしいけれど、彼はのらりくらりと交わしているのだとか。
もちろん政略結婚などせずともクレメンス様が宰相にまで昇り詰めているということは、メッテルニヒ家は没落の危機になど遭っていないようだ。
まだ詳しくは調べていないのだけれど、おそらくフランス革命の時期もズレている。クレメンス様もゲンツさんも、革命の炎がヨーロッパに広がっていく激動の時代を見てきたと言っているのだ。
けれどフランス革命が1789年、今から三十一年前に起こったことを考えると彼らの年齢とつじつまが合わない。おそらく十年ぐらいのズレがあると推測するのが妥当だろう。