元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
電子辞書やもとの世界で学んだ歴史が間違っているとは思えない。細かいことはともかくして、大きな事件の年表などが根本から違っていることはまずありえないはずだ。
そう考えたとき、私の中でひとつの仮説が浮かんだ。
私はタイムスリップしたのではなく――並行世界、または地球によく似た異世界にトリップをしたのではないか、と。
我ながらとんでもない仮説だとは分かっている。けど、そもそもタイムスリップだってとんでもないことなのだ。今さら時間だけでなく異空間を飛び越えたところで大差はない気がする。
とにかく。どうやらこの『十九世紀ヨーロッパ』は、元居た私の世界の認識とはほんのちびっとだけ違っている。それが分かったことは大きな収穫だった。
それに気づいてから私は密かに独自で年表を作るようになった。元居た世界での記憶と電子辞書の情報を頼りに、新たに仕入れたこちらの世界の情報と併せ、違いを把握していくためだ。
それが功を奏し、私はだいぶ歴史に詳しくなることができた。そして理解できたのは、この世界の歴史のズレは数百年前から時々起きており、それはささやかな変革をもたらすものの、とりたてて大きな影響力はないということだ。
そしてこの近年でもズレは起きているが、大きな事件そのものはなくなったりしていないし、歴史に名を遺す人物が消えてしまっているようなこともない。ただ、四十年かけて起こったことが二十年くらいにギュッと凝縮されているということが分かった。