元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
天国がどんな構想になっているかは知らないけれど、きっと国ごとの居住区くらい別れているはずだ。ここも悪くはないんだけれど、できるならやっぱり日本の居住区に行きたい。
すると入ってきた男性と女性はポカンとして顔を見合わせ、非常に怪訝そうな表情を浮かべた。
一応、日常会話ができるくらいにはドイツ語話せるんだけどな。ネイティブな地域なのだろうか、通じなかったかな。
そう思って困っていると、男の人が「とにかく、旦那様を呼んでまいります」と言って部屋から出ていってしまった。
残された女性の方はあからさまな警戒の色を浮かべながらも、テーブルの水差しから水を汲んだグラスを私に差し出し、肩に温かなショールまでかけてくれた。さすが天国、サービス満点。
そんな風に感心していると廊下からバタバタと足音が聞こえ、再びノックの音が響いた。
ボケッとしていたけれど、女性がこちらに視線を向けているのを見るからに私が返事した方がいいらしい。
「どうぞ」と答えると、先ほどの男性を従えた背の高い男性が入ってきた。その姿を見て、私はうっかり目を瞠る。
百八十センチは優に超えているであろう長身。金色の巻き毛に縁どられた顔はまさに美丈夫。キリリと凛々しい眉毛と相反するような甘い目もと、通った鼻筋は美しく、浅く弧を描いて微笑むさまはなんと上品なのだろうと慄いた。
前身頃の短い燕尾の上衣に白い細身のズボンと黒いブーツ姿の彼は、私を最初に見にきた男女と違い余裕たっぷりな様子でこちらに歩いてくる。
そしてベッドの前まで来ると私の顔をマジマジと眺めて微笑んだ。