元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
元の世界で働いていたとき、営業部の部長が鬱になって退職してしまったことがあった。所属が違うのにも関わらず、私が社長にこき使われているのを見て心配してくれるような優しい人だった。

けれど他人の傷みにまで気を配ってあげられる人というのは、心が優しすぎるのかもしれない。彼は上層部と現場の板挟みになって心を病んでしまった。

営業部長の退職を聞いたとき、私はおこがましいと分かっていても自分の無力さを悔いた。何度も『あまり無理をしてはいけないよ』と声をかけてくれたあの優しい人に、私はなんの力にもなってあげられなかったと。

ラデツキー将軍が彼と同じだとは限らない。むしろ戦場で指揮を執り続けている人なのだから、強靭な精神力がなければやってられないだろう。

けれど、秘書官見習いの小僧である私にも丁寧に友好的に挨拶してくれた彼は、少なくとも真面目で情に厚いタイプなのではないだろうか。

夕闇の中ベンチに佇むラデツキー将軍の姿がいつかの営業部長の姿と重なって見えて、私は気がつくと彼の側まで来ていた。
 
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