元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
「うん、思ったより元気そうだ」
その柔らかな微笑み、穏やかな声は女殺しと言っても過言ではないだろう。つい彼に見惚れながら私は、もしかしてこの人が大天使様ってやつじゃないだろうかなどと考えていた。
彼はベッドの脇に椅子を用意させるとそこに座り、私以外の者を人払いした。
大天使様とはいえいきなりこんなイケメンとふたりきりにされてしまい、うっかり胸がドキドキしてしまう。
「初めまして、お嬢さん。私はクレメンス・フォン・メッテルニヒ。そしてここは私の私邸だ」
「メッテル……ニヒ?」
彼の挨拶を聞いて、私は(おや?)と小首を傾げる。クレメンス・フォン・メッテルニヒ……。どこかで聞いたことある気がする。大天使様の名前……ではなかったな。
「きみはドナウ川の川岸に倒れていたんだ。どこから流されてきたか覚えているかい?」
さらに続けて話された内容に、私は耳を疑った。
「え? ドナウ川?」
「そう。私の屋敷のすぐそばだ。たまたま馬車で通りかかったときにきみが倒れていたのが見えて――」
「ちょ、ちょっと待って。ドナウ川って、あのヨーロッパの長~いドナウ川?」
「そうだが? きみは上流から流されてきたんだと思ったけれど、違うのか?」
私はしばらく唖然としたあと、大混乱した。