元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
(あれ? ここどこ? 天国じゃないの? ドナウ川? ってことは、ここドイツ?)
必死に記憶を辿るけれど、私が落ちたのは確かに日本の川だ。もっと言ってしまえば港区の古川だったはずだ。
古川から東京湾に出て太平洋から大西洋に流れて黒海に……とそこまで考えてあまりの馬鹿らしさに頭を振った。
混乱を極めたあとに、私の中にひとつの仮説が芽生えた。非現実的だと思いながらも、その推測はあまりにもしっくりとくる。
物理的に不可能な古川からドナウ川への移動。ドレスやテイルコートの時代錯誤な格好の人々。もしかして、これは――。
「あの……今って、西暦何年ですか?」
おそるおそる聞いた私に、メッテルニヒさんはサラリと答える。
「1822年、ちなみに三月だ」
「――やっぱり!!」
これって、映画とかで見たことある! タイムトリップとかいうやつだ!
もしこれが夢や幻覚でないのならば、私は十九世紀のドイツに飛ばされてしまったらしい。
(けど、なんでよりによって十九世紀? しかもドイツ?)
自分で立てたとはいえあまりに突拍子もない仮説に、再び頭が混乱に陥る。
険しい顔をして考え込んでいると、メッテルニヒさんが頭を屈めて私の顔を下から覗き込んできた。