元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
「どこか痛いのか? 顔色は悪くないようだけれど、医者に診せた方がよさそうだな」
彫刻のように端正な顔に間近に迫られてしまい、グルグルと思考を巡らせていた頭が熱を帯びて我に返る。
「だ、大丈夫! 元気です! お気遣いなく!」
焦って彼の肩を押しやりながら作り笑いをすると、メッテルニさんヒはキョトンとしながらも「ならいいんだが」と身を引いた。
「きみには色々聞きたいことがあるが、まずは体力をつけなさい。丸一日眠っていたんだ、お腹もすいてるだろう。今、食事を持ってこさせる」
メッテルニヒさんはそう言って私の肩を軽く叩くと、椅子から立ち上がった。そして部屋から出ていこうとして、ドアの前で振り返る。
「私はホーフブルクへ行くので三日ほど留守にする。必要なものがあれば先ほどの者に言いなさい」
「はあ、ありがとうございます……いってらっしゃい」
ホーフブルクってなんだ?と思いながら間の抜けた送迎を口にした私に、メッテルニヒさんは可笑しそうに目を細めて手を軽く振って出ていった。
ひとりになった部屋でぼんやりとしたあと、私は辺りをキョロキョロと見回した。
今、私が着ているのは寝間着らしきものだ。大きなシャツみたいなもので、襟元に少しレースがついている。たぶんこの家の誰かが着替えさせてくれたのだろう。
(私の服とか荷物ってどうなってるんだろう?)
映画で見たタイムトリップでは、身に着けていたものも一緒についてきていた。だとすると私のスーツとブラウス、それからバッグなんかもこちらにあるはずだ。