元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
イタリア、ヴェローナ。
シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』の舞台として有名な町だ。
中世の面影残すこの街に、秋の深まりとともにヨーロッパ中の重要人物たちが続々と集まってくる。
私がクレメンス様とゲンツさんと共にヴェローナに到着したのは、十月十二日のことだった。
公使館には、ロシアのアレクサンドル皇帝、プロイセンのフリードリヒ・ウィルヘルム国王、イギリスのカッスルリー外相、フランス外相、イタリアの有力諸侯、ロスチャイルド男爵、それに我がオーストリアのフランツ皇帝らが顔を揃えていた。
(すご……これって元の世界でいうEU首脳会議みたいなものじゃない?)
いくらクレメンス様の遠縁を名乗っているとはいえ、自分がこんな所にいるのは場違い感がすごい。
「……僕って本当にここにいてもいいんですかね……?」
情けなく小声でそんなことをゲンツさんに聞くと、「今さら何言ってるんだ。いいから働け、こっちは忙しいんだ」と叱られた。そもそもゲンツさんも会議期間は議長のクレメンス様の補佐として事務総長を務めるのだから、忙しくて猫の手も借りたい状況なのだ。
私は会議の裏方として晩餐会から余興の手配の指示、会議の資料の準備確認、おまけにヴェローナ滞在中、要人にあてられる手紙の検閲まで、てんてこまいに駆けまわった。