元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
クレメンス様がそんなに悩んでいた問題なのに軽々しいことを言ってしまって、やっぱり怒らせてしまったんじゃないだろうかと気を揉む。けれどゲンツさんはそんな私の額を軽くピンと指で弾いてから、ニンマリと笑った顔を近づけた。
「あいつが欲しかったのは、ご立派な建前だ。ウィーン体制の理念と相反さない姿勢で、ギリシャを支援できる建前がな。形骸化ってのはよく言ってやったと思うぜ。必死にウィーン体制にしがみついているメッテルニヒにとっちゃ耳の痛い言葉だろうけど、あいつの探してた『立派な建前』に使える。……動くぜ。お前のひと言で、ヨーロッパが」
ゾクリと、全身が震えた。
(ヨーロッパが動く……? まさか、私なんかの言葉で?)
いくらメッテルニヒ家の遠縁を名乗らせてもらっているとはいえ、私はなんの役職も権力もないただの見習いだ。もっといってしまえば、異世界から来たただの凡人だ。
そんな私がまさか、歴史に影響を及ぼすとでも言うのだろうか。
「まさか……そんな」
引きつりながらヘラリと笑うけれど、ゲンツさんは楽しそうに口角を上げるだけで冗談だとは言わない。
――そして半年後。
「ヨーロッパの真の平和と統治のもとに」という名目で、オーストリア、イギリス、フランス、ロシアのギリシャ支援が決まり、ロシアのサンクトペテルブルグで協定が結ばれた。
私の目の前で、歴史が変わった瞬間だった。