元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
(とにかく、これ以上は史実とのズレを作らないようにしよう。ズレができた結果、何が起きるか分からないもんね)
それこそ、万が一にでも大きな戦争なんか引き起こしてしまったら大変だ。口は災いの元、と自分を戒め、本宮殿の廊下を歩いていたときだった。
「ツグミ!」
誰かに呼び止められ、私はハッと足を止める。キョロキョロと辺りを見回していると、中庭からバルコニーを通ってこちらへ駆けてくる少年の姿が見えた。
「あ! えっと、えーっと、なんだっけ……あ、鷲! 鷲の子、レグロン!」
それは去年の夏前、本宮殿で会ったあの不思議な美少年だった。
レグロンというオーストリアではなかなか耳慣れない言葉を思い出せずにいた私に、彼はプッと吹き出して可笑しそうに笑いながらこちらへ駆けてくる。
「あはは、あは、はは……、やっぱあんた、変だ」
息を切らせて私の肩に凭れ掛かるように手を掛けながら、少年は額の汗と笑いすぎて滲んだ涙をぬぐった。
けれど急いで駆けてきたからか、彼はゴホゴホと咳をしだし苦しそうに口もとを押さえる。