元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
「行けばよかったのに。あなたの年齢なら、後学のためにとでも言えばお許しが出たんじゃないですか?」
素直に疑問を口にすれば、少年は「ははっ」と乾いた笑いをしてから、私の背中をバシバシと叩いた。
「駄目だよ。僕はウィーンから出るとモンスターに襲われる呪いがかけられてるんだ。だから、どこへも行けない」
「も、モンスター? 呪い?」
驚いて目を剥いた私を見て、少年は今度は大声で笑う。
「そうだよ。だから僕はいつだってこの薄暗い王宮でお留守番さ。ねえ、それよりヴェローナ会議の話をしてよ。誰がいた? パーティーは盛り上がってた? あ、〝M〟の話はいらないよ。僕、アイツのこと嫌いだから」
「は、はあ」
ウィーンから出たらモンスターに襲われる呪いってなんだろう? 何かの比喩だとは思うけれど、なにせまだ科学が発達してるとは言い難い時代だ。オカルト話にも妙な説得力がある。
けれど矢継ぎ早に出される質問に圧されて、彼の呪いの話は結局うやむやになってしまった。