スーパーガール
万引犯が突進してくる数秒の間、脳裏に学くんの顔がよぎった。

夏休みの遊園地。

引ったくり男に跳び蹴りをかまし、締め上げる私を見て、怯えた学くん。


あれをまた、繰り返してしまうの……?


「どけえーっ!」


ハッと我に返る。

万引犯が叫ぶと同時に、私は攻撃の構えを解き、壁際に逃げた。

これまでの自分には考えられない、消極的な反応だ。もちろんそれは、棚橋さんの目を気にしての、とっさの行動である。

万引犯が目の前を駆け抜けていく。すごい速さなのに、私には、まるでスローモーションのようにゆっくりと映った。

ああ、過去の過ちを繰り返さずに済んだのだ――

喜びの気持ちでいっぱいになり、ほっとしたのは一瞬のこと。私はすぐに状況を把握し、青ざめた。

万引犯が逃げる先に、棚橋さんが立ちはだかっている。


「きみ、止まりなさい!」

「じゃまだ、どけえーっ!」
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