スーパーガール
棚橋さんは仕事が終わると、コーヒーを一杯飲んでから帰宅する。私は、そのタイミングを見計らってデスクに近付いた。


「あのっ、棚橋さん。私、今からコーヒーを淹れますけど、ご一緒にいかがですか」


わざとらしくならないよう自然に言うつもりが、かえって力んでしまう。棚橋さんはそれに気付いてか、「よろしくお願いします」と、目を細めた。


「どうぞ」

「ありがとう」


湯気の立つカップを棚橋さんのデスクに置き、私は近くの椅子を引き寄せて座った。日の暮れた事務所にいるのは、幸いなことに二人だけ。


「どうしたんですか?」

「えっ?」


棚橋さんの優しい声が、静かなオフィスに響く。


「何か言いたそうだ。バイトが終わる時間はとうに過ぎてるのに、僕のコーヒーに付き合うのも珍しい」

「は……はい」


ミルクも砂糖も入れない、カフェインたっぷりの液体を口にした。苦い、けれど頭が冴えてくる。勇気が湧く。

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