スーパーガール
私は、自分の本当の姿を晒さないために、彼に隠しごとをしている。

例えば、格闘技の選手だったこと。高校時代の部活動を訊かれた時、「空手部……」とうっかり答えてしまい、慌てて「の、マネージャーです」と付け足した。

自分のことを運動バカの怪力女ではなく、スポーツ好きの普通の女子であると偽ったため、これまでのようにジムに通えなくなった。

アイデンティティをないがしろにするのは不本意だが、妥協せざるをえない。

これほど密接に生活していると、ちょっとしたことで何もかもばれてしまいそうで、怖いのだ。

棚橋さんは、そんな私の恐れに、まったく気付かない。私の話すことをすべて信じ、好意的に接してくれる。

幸せだけど、隠しごとをしているという負い目が常にあった。自分自身をないがしろにしている、もどかしさも感じる。

でも、彼の笑顔を見ると、やっぱり幸せいっぱいになるのだ。

この生活には、いつか終わりが来ると知りながら、彼をますます好きになるのを止められなかった。
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