スーパーガール
振り向くと、畑山《はたやま》くんが手を挙げていた。


「俺も一応、スポーツ学部の人間なんで」


畑山学くん――彼は、先月雇われたばかりの学生アルバイトだ。

初めて会った時、『学』という名前を聞いてハッとしたが、あの学くんとは似ても似つかぬ、筋骨隆々の体育大学の学生である。

ボサボサに伸びた髪と口髭がコワモテに見せるが、よく働く真面目な学生だ。それに、意外なほど書籍に詳しい。

私と同じ事務補助に雇われたのだが、力持ちなので現場に引っ張られることが多い。最近はほとんど事務所に顔を見せないためか、彼の存在を皆、忘れていた。


「あら、そうよね。畑山くんもスポーツ系の学生だし、末次さんと一緒に勉強させてもらうといいわ!」

「おいおい、勝手に決めるなよ。課長は教材じゃないぞ」

「そうだよ。棚橋さんの都合も考えなきゃ」


社員達がわいわいやるのを、棚橋さんは複雑な表情で見やった。それがどういう意味を持つのかわからず、私は返事をしかねる。

でも……


「棚橋課長。どうぞよろしくお願いしまッス!」


畑山くんが思いっきり頭を下げた。

あまりにも大きな声だったので社員達は驚き、ぴたりとおしゃべりを止める。


「ええと……」


棚橋さんは右手で前髪をかき上げ、それから、ふっと笑みを浮かべた。


「それでは、お二人に頼もうかな。末次さん、引き続きお願いできますか?」


もう終わるはずの繋がりが、思いも寄らぬ形で再び結ばれた。

私は迷いなく、「はい!」と返事をしていた。
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