スーパーガール
何という偶然だろう。同市の人だったとは!


「どの辺りに住んでた? 私は北部小学校だったよ。畑山くんは?」


嬉しくなって訊ねるが、彼はなぜか黙り込んだ。


「……どうしたの?」

「いや、昔のことだから忘れちまって……ごめん」


T市に嫌な思い出でもあるのだろうか。通っていた小学校を忘れるなんて……だけど、事情ありげな様子に、私は追及するのをやめた。


「でも、こんな偶然ってあるんだね。どこかですれ違ってたかもしれないね」

「そうだな……あ、棚橋さんだ」


前を見ると、マンションの前で棚橋さんが左手を振っている。


「あーあ、あんなに振って。気持ちはわかるけど、無理しないでほしいよ」


畑山くんは苦笑し、駐車スペースに車を進めた。

私も荷物を確認するうちに意識が切り替わり、出身地の話はそれきりになってしまった。
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