スーパーガール
本当の私を、彼は知らない。

運動バカの怪力というアイデンティティを晒せば、一体彼はどう思うだろう。

学くんのように、どこかに行ってしまう気がする。


「ううう……」


いっそ、ぶちまけてしまおうか。

さっき棚橋さんは『坊っちゃん』の登場人物について、こう語っていた。


――主人公の坊っちゃんも魅力的ですが、僕は山嵐が好きですね。人の好い豪傑というか、まっすぐな気性が良い。


私はそのキャラクターに近い気がする。もしかして、受け入れてくれるかもしれない。


「いや、やっぱりダメだ。だって私は嘘ついてるし、全然まっすぐじゃないもの!」


しゅんしゅんとお湯が沸いてきた。

ほうじ茶をポットに入れて、お弁当を抱える。

私は考えがまとまらないまま、502号室に戻るほかなかった。

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