スーパーガール
逃亡
お昼を食べたあと、畑山くんは耐震ベルトの交換作業に入った。脚立の上に立ち、工具を使って器用に交換していく。


「あらためて見ると、すごい量ですね」


壁際にある背の高い書棚はぎちぎちに本が詰められている。書棚事体が頑丈なので、総重量は100kgを超えるだろう。


「棚橋さんは、ここにある本を全部読まれたのですよね。私はその……本をあまり読まないので尊敬します」

「いやあ、それは大げさですね。逆に言えば、本を読むくらいしか趣味のない、退屈な男ですよ」

「……えっ?」


退屈な男――


棚橋さんのことを、そんな風に思ったことはない。というか、彼らしからぬ発言だ。


「例えば、この左手。運動神経が鈍いから、上手く受け身をとれなくて、骨折してしまった。畑山くんのようにスポーツができる人なら、無傷だったでしょうね」


万引犯を捕まえた時のことだ。

棚橋さんは、作業する畑山くんを羨ましそうに見ている。


「そんな。あれは、運動神経は関係ないです。犯人と揉み合って階段から落ちて、怪我だけで済んだのだから、立派です!」


私がムキになって言うと、彼は困ったように笑う。
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