スーパーガール
アイデンティティ
仕事を終えて建物から出ると、ムッとする暑さに襲われた。

昼間の熱気がビルの壁やアスファルトに蓄えられ、夜になっても気温が下がらないのだ。

暑さに喘ぎ、ショートボブの前髪をかき上げた。


「暑い~。一日中涼しい事務所にいたから、余計にこたえるよ」


リュックを負う背中に汗がにじむ。今日から八月。本格的な夏に突入したのを実感する。

大学が夏休みに入ったので、平日も働くようになった。土日を含めて週5日の勤務である。仕事は忙しいけれど、バイト代が増えて助かるし、毎日のように棚橋さんに会えるのが嬉しい。


「なあんてね。うふふ……」


一人で照れ笑いする私を、通行人が訝しそうに見ていく。


「いけない、いけない。気を引きしめなくちゃ」


火照る顔を俯かせ、早足で歩き出した。

今日はこれから、駅近くのスポーツジムでトレーニングする。ゆるい気持ちで取り組んで、怪我でもしたら大変だ。バイトに差し障っては元も子もない。

勤務時間が増えたので、今後は事務仕事のほか、売り場の作業も手伝ってもらうと人事の人に言われている。


「よーし、モチベ上がってきた。体調を万全にして、棚橋さんの期待に応えるぞ!」


やる気をみなぎらせ、スポーツジムへと足を進めた。
< 8 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop