ハイリスク・ハイリターン
あのとき手を伸ばしたのは、どちらからなんだろう。
私からだったのか。彼からだったのか。
今はもう、そんなことどうでもいいけれど。
「昨日のことはお互い忘れよう」
そうハッキリと言葉にする。彼を前にして。
まるで自分にも言い聞かせているようだと思った。
私の言葉に、透真は驚いたように目を見開く。
そうして何かを言おうと口を開いたけれど。
「まあ、もう大人だし、こんなこともあるさ」
何を言われるのか、怖くて。
聞きたくなくて、矢継ぎ早に言った。
「でも飲み過ぎ注意!気をつけましょう!以上!」
ぬるくなった泡のないビールを口に含む。
冷たくなった料理に箸を伸ばす。
そんな私は随分と滑稽だったと思う。
それでも、何かをしていないと自分を保つことができなかった。