ハイリスク・ハイリターン



――…それからのことは、あまり覚えていない。


何を話しただろう。
どんな空気だったっけ。
ちゃんと笑えていたかな。



ただ、彼が時折見せる表情や落とす視線に、心が痛くてたまらなくて。どうしようもなく、泣きたくなった。




昨日のこと。
忘れることで、なかったことにして。
そうしてずうっと縛り付けて、傍を離れなくて。

私はなんて狡(ずる)くて最低な人間なんだろう。


でも、やっぱりどうしても。
今まで築き上げてきたもの、関係、距離。

たった一度のあやまちで、すべて壊れてしまうことがひどく怖くなった。



だから、きっと。
綺麗に忘れられたら、なかったことにすれば。
今までどおり、変わらず一緒にいられるんだと。

そう信じて疑わなかった。





私は、馬鹿だ。


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