ハイリスク・ハイリターン



膝に乗せた手が、情けなく震える。
私のグラスの水滴が、音もなく静かに流れた。



「朔」



それは確かに私の名前のはずなのに。
違う単語に聞こえるのはなぜなの。



「ごめん」



聞いたことのない、震える声が耳朶を掠める。

居酒屋特有の暗い照明のせいでハッキリとは確認できないけれど、きっと目の前の彼は酷い顔をしているんだろう。


そして、私も。



「昨日はごめん」



そう言って頭を下げる彼に、手を伸ばすことができない。

それ以上、謝らないで。
傷つかないで。後悔なんてしないで。



「本当に、ごめん」



――言わないで、お願い。


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