眠らぬ姫に不正解な祝福を。



あっと声を漏らす前に、イスターは私の手の甲にキスを落とした。



「追い返しの魔法は使ってませんよ」



少しだけ勝ち誇った笑みを浮かべて私の手を離し、開けていた窓を閉めに足を動かすイスターに、私は小さくため息をついた。



「またそうやって隣国の騎士を、いじめて楽しんでるの?」


「それはまるで俺が悪者みたいじゃないですか」


「悪者以外に何があるっていうの」



まったくと吐き出しながら自分の席にそっと座り、ケーキスタンドに綺麗に並べてある林檎のタルトに手を伸ばした。


一口齧ればサクッとした生地に甘酸っぱい林檎の食感が、口いっぱいに広がった。


もしこの林檎に毒が入っていて、運命の人のキスでしか起こせない魔法がかかっていたら。


その先には本当に幸せが待っているのだろうか。


そんなおとぎ話のような出来事は、私にはやってこないけれど。



「……悪い黒の魔女の弟子のあなたは、いつまで私をここに閉じ込めて置くつもりなのかしら?」



毒の入っていない林檎をしっかりと飲み込み、からかい半分でそう言うとイスターは少しだけ眉間にしわを寄せた。



「それは……マイラ様には呪いがあるからでしょう」


「ええ、そうね。じゃなきゃ、私はこんな狭い世界にいないわ」



12歳のーーあの誕生日の夜。


たくさんの祝福を受けたはずなのに、私は何一つ満たされることはなかった。


両親からの偽物の愛なんかいらない、私は玩具なんかじゃない、とずっと足掻いていた。


そんな時あの人が……イスターが現れた。






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