眠らぬ姫に不正解な祝福を。
優しく頬を撫でるイスターは、どこか少しだけ寂しそうな表情を笑顔に混ぜながら私を見つめた。
「舞踏会のあの夜のことは覚えていますか?」
「舞踏会……?」
「12歳の誕生日の前の。お父上の…国王様の誕生祭のあの舞踏会」
閉じこもりを繰り返していたあの毎日は、舞踏会は私にとって唯一外の空気に触れる瞬間だった。
でも、大人達のあの醜い言葉と、薄汚い心のない笑みが嫌いで、部屋に戻りたかった記憶しかない。
「そこで俺は視察を任されて、身隠しの魔法をかけて城へ入り込んだ」
黒の魔女は王座を手にしたくて父を殺めようとしていたのは、大臣達の話では聞いていた。
でも自分の足で城へ入ることはできない呪いをかけられていて入ることはできなかったけど、まさかイスターを使って色々させていたとは。
悪役はいつだって隙がない。
「でも、その魔法が通用しない人がいた」
「バレて追い出されたりしたの?」
「いいえ。追い出されることはありませんでした」
黒の魔女の弟子なんていること自体あまり知られてなかったのか、何なのか。
追い出されなかったなんて、運がいい男だ。