強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛旦那様になりました。(番外編)




 ドアを開けた瞬間、廊下から声がしたので千春はそちらの方を見ると、会社の女性社員がこちらを覗き込んでた。
 そして彼女たちの視線の先には、秋文がいた。
 上司に「早く職場に戻りない。」と注意され、彼女たちは渋々部屋に戻っていくけれど、最後まで秋文を見ていた。

 それを見て、千春は一気に頭が冴えてきてしまった。

 「あ、秋文……お迎えに来てくれてありがとう。それと、心配かけてごめんね。」
 「いや、いいんだ。大丈夫か?」
 「うん、もう大丈夫だと思う。…………それと、1つ聞きたいんだけど…………。」


 千春が秋文を見つめながら、恐る恐る質問しようとすると、彼は不思議そうに「なんだ?」と優しい表情で聞いてきてくれる。
 きっと無自覚なんだ……、そう思いながら、千春は彼に問いただした。


 「もしかして、変装もしないまま職場に顔出したりした?」
 「あぁ……。急いでいたし、いつもお世話になってるし。それに、今さら隠す事でもないだろ?内緒にしてるって聞いてたけど、もういいかと思ったしな。」
 「………やっぱり…………。」


 千春は、それを聞いてがっくりと肩を落とした。
 秋文は、自分がどれぐらい有名かわかっていないようだった。
 千春が寝ているときに聞こえた歓声や、先ほど覗いていた女社員は全て秋文を見に来たのだろう。

 突然、職場に有名なプロサッカー選手が挨拶にやってきたら、騒がない人はいないのではないだろうか。それに、秋文はモデルの仕事をするぐらいに、かっこいいし女性にも人気がある。彼が結婚したというのは、公表されているけれど、まさか同じ会社の女性としたとは思ってもいないだろう。
 同じ名字になった千春だったけれど、誰も秋文と結婚したとは思ってもいなかったはずだ。


 「秋文………きっと帰るときはすごい事になるよ。」
 「………そうか?もう30歳だし、そんなに人気ないぞ。」
 「そんなことないの!秋文はかっこいいし、有名だし、サッカー選手としてもすごいんだからね。」
 「………そう、なのか? 」

 千春がそう言うと、何故か彼は赤くなり嬉しそうにニヤけていた。
 先ほどまでの眩暈はいつの間にか無くなっていた。きっと、彼が来てくれた事で安心したのだろう。
 彼の優しさには感謝してもしきれないぐらいだ。


 けれど、これから会社では「サッカー選手の秋文の妻」として、好奇の目で見られてしまう事に、千春は少しだけ心配になってしまってしまい、別の意味で頭がくらっとしてしまった。




< 29 / 96 >

この作品をシェア

pagetop