強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛旦那様になりました。(番外編)



 そんな順風満帆の生活をしていた千春だったけれど、この日は違っていた。
 今日は月に数回、会社に顔を出す日だった。
 仕事の報告と、依頼の確認だった。
 いつも早めに会社に着いていた千春は、ビルの中に入っているカフェでコーヒーを飲みながら書類を見つめて仕事の確認をしていた。


 「久しぶり。」


 そこへ、隣に誰かが座ったと思ったら声を掛けられたのだ。
 その声を聞いた瞬間、千春は体が固まってしまった。忘れるはずもない、その人物の声。 
 千春は、ゆっくりと隣に座る人へ目を運んだ。


 「駿、先輩……。」

 
 そこに居たのは、千春が秋文と恋人になる前に付き合っていた元彼氏だった。
 千春が憧れていて、やっと付き合えてよろこんだ途端に「中身が想像と違った。」という理由でフラれた。そして、その後に体の関係だけを求められた。
 千春にとって、あまりいい思い出がない。今となっては苦手な男性だった。

 
 「たまたま見かけてね。相変わらず、美人だね、千春ちゃんは。」
 「……駿先輩、私……。」


 強ばった顔で、今の状況を伝えようと千春は思いきって声を出した。
 けれど、綺麗な顔で微笑んだまま駿は、千春の言葉を遮った。


 「結婚したんだって?おめでとう。」
 「あ、ありがとうございます。」

 
 まさか、お祝いの言葉を言われるとは思わず、千春は呆然としながらも、返事をする。
 やはり結婚したと知れば、前みたいな事を言われないのだろうか、と少しだけホッとしてしまう。
 先輩も、何年も前の事だ。きっともう何とも思っていないのだろう。千春はそう思った。


 「あの、秋文選手と結婚だなんて、すごいね。どこで知り合ったの?」
 「学生の頃からの友達で………まさか、彼と付き合うことになるとは思ってなかったんですけど……。」
 「なるほどね。だから、僕の誘いを断ったんだね。」
 「………え……。」

 

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