強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛旦那様になりました。(番外編)
「ここまでは入ってこれないはずです。………一色様、大丈夫ですか?」
「………ごめんなさい。助けてもらってしまって。私、どうしていいかわからなくて。」
「それは仕方がないです。こちらも、取材陣がいるのに気づかなかったので外出を止めることが出来ず、すみませんでした。」
きっちりと黒のスーツを来たコンセルジュは、深々と頭を下げた。
千春は、「私も気づかなかったので!気にしないでください。」と言い、そしてエントランスのドアを見つめた。
取材陣がそこから入ってくることはないとわかっているけれど、それでも先程のようにまた強い視線の彼らに取り囲まれると思うと、千春は体が震えてしまいそうで、両腕で自分の体を抱きしめた。
「今日は外出を控えた方がいいですね。今後の事は旦那様とご相談した方がいいかもしれませんね。外の取材陣が多くなれば、ここに住んでいる方にも迷惑になるので、警察を呼ぶようにします。」
「わかりました。………助けてくれて、ありがとうございます。相談してみます。他の皆さんにも迷惑になりますので。本当にすみません。」
「………あのっ!」
「はい?」
千春がお礼を言ってから彼女と離れてエレベーターに乗ろうとした時だった。
彼女が大きな声で千春を呼び止めた。
「あの、私は一色様がこちらに来られた時からずっとここで仕事をしてますが……あの方が、報道されているような事をする人だとは思えません。それに、奥様も。いつも笑顔で挨拶をしてくれたり、差し入れまで貰ったりして、本当に嬉しいんです。だから……あんな報道に負けないでくださいね。」
コンセルジュの女性は、少し頬を赤く染めて恥ずかしそうにしながらも、しっかりと千春の目を見て、そう勇気づけてくれた。
彼女のまっすぐな気持ちと言葉が、千春はとても嬉しかった。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、私も……そして夫も嬉しいです。」
千春は、彼女に笑顔を向けてからエレベーターに乗った。
けれど、その瞬間の顔はとても暗いものだった。
コンセルジュの彼女はああやって良く言ってくれる。けれど、マンションの住人は快く思わない人も多いだろう。
それに、報道陣のインタビューから逃げるように去ってきた千春を、取材陣はどう思っているか。
やましいことがあるから逃げたのではないか。そう思うのが普通なのかもしれない。
千春は、すぐにでも彼に電話をしたかった。彼の声を聞いて安心したかった。
けれども、それが出来ずにただスマホを握りしめたまま部屋に戻った。
少し考えてから秋文にはメールで、「時間が出来たら電話ください。」とだけ連絡をした。
秋文から電話が来るまでの時間、千春はとても長く感じただスマホを呆然と眺めていたのだった。