強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛旦那様になりました。(番外編)
「いいんだ。千春、話してくれないか?」
『………実は、マンションの前に報道陣が来ていて……。』
「自宅の前までっ!?」
秋文は、驚きで声を荒げてしまった。
千春は、秋文にメッセージを送る前に起こった事をゆっくりとした口調で話してくれた。
マンションの敷地を出た瞬間に、取材陣に囲まれた事。何も言えなくて困っていると、マンションコンセルジュが助けてくれた事を話してくれた。
千春は、その時も申し訳なさそうにしていた。
全ては、言い合いをした自分が悪いというのに。
「千春は大丈夫だったのか?」
『うん……私は質問されただけだから。けど、堂々と話せなくてごめんね。秋文の迷惑になるような事言わないようにって思ったら、何て話せばいいのかわからなくて。』
「お前が無事ならそれでいいよ。それに、何も言わずに無視しておけばいいさ。」
『………うん。それとね、マンションにいるともしかしたら他の人に迷惑がかかりそうで。』
そこで、ようやく彼女が連絡してきた本当の理由がわかった。
不安だったのもあるだろう。怖い思いもしただろう。
それなのに、彼女はいつも我慢してしまう。
今日は電話を求めるぐらいに我慢出来なかったのだと思っていた。
けれど、電話した一番の理由は、マンションに住む他の住民のためだった。
あぁ、千春らしいな。と、秋文は思いながらも、少しだけ切ない気持ちになってしまう。
「そうだな。じゃあ、しばらくはマンションには戻らないようにしよう。……あとで迎えにいくから、どこかに泊まれるように準備だけしておいてくれ。」
『うん。……でも、秋文が来たら騒ぎにならないかな?』
「確かにそうだな。じゃあ、代わりの人を探して頼んでおく。」
そう言って、時間やバレないように変装するなど、彼女と打ち合わせをしてから電話を切った。
「よく考えれば、こうなることぐらいわかってたはずなのにな……自分の事だけで頭いっぱいになりすぎだろ。」
秋文は片手で髪をくしゃくしゃとかきあげながら、スマホを乱暴にロッカーへと投げ入れた。
ジャージに着替えても、しばらく外に出れずにいた。秋文は、ぼーっとしながらも頭の中でこれからやることを考え続けた。
そして、1番彼女に迷惑を掛けない方法を考えるしか、今の秋文には思いつかなかった。