強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛旦那様になりました。(番外編)
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千春が大きなバックに着替えや仕事道具などを詰め込み、冷蔵庫にあった生物を全て料理してタッパーに入れると、大きな荷物になってしまった。
あまりの重さにフラフラになりながら、マンションのエントランスに行くと、革製のブラウンのソファーに2人が座っていた。
「あ、東先生に、美和子さんっ!」
「千春ちゃーん。久しぶりねー。」
「結婚式以来だな。いやーますます綺麗になって。秋文は幸せ者だなー。」
そこにいたのは、秋文のリハビリを担当している東とその奥さんの美和子だった。
東は、髭をはやしたとても渋い男性で、かっのいいおじ様という印象の先生だった。そして、美和子は、綺麗なブラウンの髪を伸ばした上品な女性で、千春の憧れでもあった。
「お2人が来てくださったのですね。ありがとうございます。」
「サッカー関係者はバレる可能性があるからな。久しぶりに千春さんにも会いたかったから丁度よかったよ。」
「大変だったわね……さ、まずは移動しましょう。帽子を被って。車に乗ったら、後ろの席で出来るだけ身を小さくしておくのよ。見えないような車を借りてきたから大丈夫だと思うけど。」
美和子は、そういうとギュッと千春の手を握ってくれた。それだけで、千春は少し安心出来た。
「一色様、もし外に出られるのなら、こちらの出口をお使いください。私たちが使っている裏口になります。」
話しが聞こえていたのか、助けてくれたコンセルジュの彼女が、そうアドバイスをくれた。
千春は、彼女の好意に感謝をしながら、裏口から3人で外に出たのだった。
一般人である東夫妻が運転席にいるためから、車に千春が乗っていても報道陣は気づかなかった。千春がなかなか出てこないので、諦めたのか先程よりも人数は少なくなっていたけれど、それでもまだ目立つ人数は残っていた。
「秋文くんも大変ねー。少し有名になると、そんなに追ってくるなんて。男なんてケンカするものなのにね。」
「立場っていうのがあるんだろうな。……でも、引退前にこうやって問題があると、彼も伸び伸びとサッカーを楽しめないのが辛いな。」
「はい………だから、なんとかしたいんですけど。」
東の言葉に、千春は頷きながらも彼の気持ちを改めて考えてしまい辛くなってしまう。
昨日の夜は平気そうに振る舞っていたけれど、きっと内心では凹んでしまっているだろう。けれど、千春の元彼氏との問題だ。千春には言いにくいのかもしれない。
千春は、秋文がどんな結論を出すのか、少しだけ怖かった。