強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛旦那様になりました。(番外編)
「秋文、先に来てたんだ……。」
千春は、大きな部屋の中をゆっくりと歩く。ふわふわのカーペットが足音を消して、その部屋はとても静かだった。
千春が奥の寝室を覗く。
すると、夜景の光が窓から見える、大きな寝室に彼はいた。
スーツ姿のまま、大きなベッドで、静かに寝ていたのだ。
「秋文……疲れてるんだよね。」
千春は膝をついてベットの横に座った。千春が来たことにも気づかないで熟睡しているのは珍しい事だった。
千春は、彼の寝顔をジッと眺めていた。
彼と結婚してから、秋文の寝顔を見れる事は増えた。それでも、なかなか見れないのは彼が早くに起きていて、遅くまで仕事をしているからだった。
今は、同じ時間に起きるようにしているけれど、目覚ましを止めてすぐに起きるのは彼だった。
いつも時間を無駄にしないで、テキパキと動く彼は、すべてサッカーのためだった。
サッカーをするため。自分で納得した動きをするために鍛えるし、早くに起きて頭を覚醒させてプレイを考える。
そんな彼のスタイルは、きっと小さな頃から変わらないのだろう。
それも、あと少しで終わってしまう。
それだけでも悲しいはずなのに、それさえも急になくなってしまったら………。
そんな事になったら、彼はどんな顔で、どんな気持ちになってしまうのだろうか。
千春は考えたくもなく、目をギュッと瞑った。
けれど、ゆっくりと目を開けてみると、目の前にいるのは、いつもの幼くあどけなく見える秋文の寝顔だった。
こんな穏やかな彼の表情を守りたいと、千春ら強く思った。
千春は、秋文が寝ているベットに上がり隣に寄り添うように寝転がった。
そして、千春は彼を起こさないように近づく。
秋文の香りと体温を感じられる距離まで近づくと、千春はふーっと小さく息を吐いた。やはり彼の傍が1番安心できる。
そう思えて、体の力が抜けていった。
千春も目を閉じようとした時だった。
「ぅ………あぁ、千春……?」
「秋文……起きた?」
「………あぁ、悪い。寝てたみたいだな。」
「ん………ど、どうしたの?」
秋文が目を覚ましたようで、近くに千春がいるとわかると、すぐに抱き寄せてくれる。
千春は嬉しくなって顔がニヤついてしまう。
「……なんか、おまえがアメリカから帰ってきた時みたいだな。」
「あ………私が寝てしまってたんだよね。起きてすぐに秋文が隣にいてくれたの、嬉しかったなぁ。」
「俺もそうだよ。あの時も、今も……。」
秋文はそう言うと、先程よりも強く千春を抱きしめた。
千春は、秋文の背中に腕を回して、優しく抱きしめ返す。