小さな傷
占い当日約束の七時少し前に到着した。
本当はもっと余裕を持って着く予定だったのに、帰り際にバカ課長が、用事を言いつけてきたため、ギリギリになってしまった。
少し息が切れていたが、ビルに入るとエレベーターがあり、五階に部屋があると書かれていた。
エレベーターの中で息を整え、深呼吸をしたところで、ドアが開いた。
想像では、なんかインドの寺院のような煌びやかな部屋(かなり偏ったイメージ)かと思ってたが、ただのオフィスビルの体裁で、少し廊下を歩いた一番奥にその部屋はあった。
ノックをすると中から返事があり、ドアがゆっくりと開いた。
「あ、予約した糀谷です。」
出てきたのは、割とカジュアルなパンツと短めのジャケットを羽織った見た目三十代(私より少しだけ年上?)の女性が出てきた。
「初めましてミリヤです。」
正直驚いた。
全然占師らしくない。
その辺を歩いていればなんのオーラもない、OLに見える。
いや、最初ドアを開けてくれた時は占師の秘書かなにかと思ったくらいだ。
「メールで大体のことはお聞きしてます。どうぞお座りください。」
物腰も柔らかく、所謂マンガやテレビに出る有名占師のような威圧感も全くない。
勧められて座るとミリヤさんは少し奥にある丸見えの台所でお茶を入れ出した。
さっきよりは少し大きめの声で
「こちらはなんで知ってくださったの?」
「あ、えーと友人の勧めで。」
「あら、そう。ご友人がいらしたことあるの?」
「あ、いえ、友人とは別の知り合いにこちらに来たことがある方がいて、友人はその方に当たると聞いたと言って私に勧めてくれました。あ、ややこしくてすみません。」
「あー、要は誰かこちらにいらした方が話を広めてくれたのね。」
これ以上説明するとややこしいので、イエスと返事をした。
お茶を二人分入れるとそれを持って席に付いた。
言ってはなんだが、座った机もただのテーブルに白いクロスがかかっているだけで、普通に人の家に来た感じだ。
「あ、今、なんか殺風景、とか思ったでしょ?」
突然の指摘に慌てた。
「やっぱ、当たりね。」
そういうとミリヤさんはケタケタと笑った。
「大抵初めて来る方は皆ほとんど同じ反応ね。そして次は少し不安な顔をするのよ。」
「…?」
「本当に当たるのか不安になるってこと。」
「あー。」
思わず声を上げてしまった。
また、ミリヤさんはケタケタと笑う。
「そりゃそうよね。ちっとも占師ぽくないし、雰囲気も無いし、これで40分で5000円も取られるんだから、不安になるわよね。」
正直今言われて不安になった。
「さて、前置きはこのくらいにして、本題に入りましょうか。」
彼女は席の横の引き出しからタロットカードを取り出した。
聞いた通りタロット占いのようだ。
彼女の目つきが変わり、無言でカードを並べて出し、いくつかをめくって、残りのカードを傍らに置いた。
「あなたの付き合った男性は5人、一番最初は高2の時ね。相手は…他校の男子で、あ、でも付き合ったのは2週間くらいで、儚い恋に終わったのね。」
驚きのあまり声が出なかった。
同時に背中に一筋の汗が伝った。
「次は二十歳の時、この彼はいわゆる『初めて』の男性ね。こちらは一年近く付き合ったけど、彼から別れを切り出された。」
そのあと残り3人との成り行きも全て正確に答え
「あ、つい最近も付き合いそうになって…でも相手から断られた人がいるわね。」
正直もういいです、と言いそうになった。
驚きを通り越して過去の苦い思い出が次々蘇り、不快な気持ちになっていた。
「あ、ちょっと不快な気持ちにさせたわね。ごめんなさい。一応すべてを辿っておかないと、次の策が立てられないからね。」
「次の策?」
思わず聞き返してしまった。
なんか占いというより、コンサルに仕事の戦略を立てられているような気分になった。
「そう、恋愛もビジネスもある意味戦略が必要、そのためにはまず己を知ること。次に相手のことを知ること。それを元に策を立てて、あとは実行する。」
「そういうもの…ですか。」
「そういうもの…よ。」
彼女はそれほど化粧も濃くなく(いわゆる占師にありがちな魔女メークではなく)
威圧感もないが、その目力と優しい笑みにとても魅力を感じた。
「出たわ。」
再びタロットをいじっていた彼女が手を止めて言った。
「明日から、必ず紫の物を身に付けるか携帯してください。」
「紫のもの…ですか?」
いきなり占いらしくなってきた。
「そう、紫のもの、なんでもいいんだけど、例えば髪飾りでも、アクセサリーでも、場合によっては腕に紫のゴム紐を巻いててもいいのよ。」
「ゴム紐…ですか。」
ちょっといい加減と感じた。
「次に、朝はパン食?」
「あ、はい、時々ごはんも食べますが、ほとんどパン食です。」
「じゃあ、その時果物は食べる?」
「はい、時々」
「できたら、明日から必ずリンゴを食べて、一切れでもいいから。」
「リンゴ…ですか?」
「嫌い?」
「いえ、どちらでもないです。」
「じゃあ食べられるわね。食べてね。」
結構強引?
「あと、服装はスカート派?パンツ派?」
「私ご覧の通り背が低いので、割と丈の短いスカートを履くことが多いです。」
実はこれにはエピソードがある。
元々スカートを多用していたが、2年前くらいまでは、膝丈の今考えると中途半端な長さのスカートばかり履いていた。
足がそんなに細くはないし、当然長くもないから短いスカートは正直恥ずかしく、かと言ってパンツも長さが出せないためシュッとした感じにはならないから、パンツは一時流行ったバギーパンツ、裾広のフレアパンツも試したがしっくり来ず、ワイドパンツに至っては袴のようだと感じ試着だけでやめた。
そんな時、当時付き合っていた(期間6か月)彼氏に
「ユウキは短めのスカートのほうが似合うよ。」
と言われてその気になって思い切って短めのスカートを履いたところ、周りにも受けが良く、男女問わず褒めてくれた。
それ以来短めスカートを履くようになり、新しく買うものはほぼ短めスカートになった。
「うん、悪くはないわね。でも、あなたが思うほど足は太くないしむしろ綺麗だから、もっと短いスカートでも似合うわよ。」
結構自分では冒険してると思っていたが、さらに短めとなると、もうミニの領域だ。
「あなたの開運ポイントは、脚を出すことよ。」
「えっ?開運ポイントですか?」
「そっ、開運ポイントは脚!」
「えー自信無いです。」
「大丈夫!とにかく1週間でいいから今より少し短めのスカートを履いて、色はなるべくパステル調で、白でもいいわ。黒や茶色の濃い系はダメ。とにかく試してみて。」
ちょっと戸惑ったが、一応メモはした。
「最後はメイクね。」
「はい、どうすれば?」
「あなた色が白いからその素肌を生かしたほうがいいわ。」
「あ、でも、実はそばかすが多くて、結構ファンデは厚塗りしてます。」
「うん、わかる。そこは隠したいと思うけど、下地である程度隠して、パウダーファンデーションは肌に近い色を薄く塗って、頬にはチークも入れて。」
「チークですか…あまりしたことないですし私丸顔なんでオカメにならないですかね。」
「貴方みたいな肌の白さは赤めのチークで仕上げると少し上気したような雰囲気になって色気が増すのよ。」
色気?ほとんど皆無と自覚してる。
「あと、アイシャドウはあまり濃い色や赤っぽい色はやめて薄めにブルー系を入れた方がいいと思う。」
ブルー系なんて持ってない。
「貴方の目は小動物系でクリッとして決して小さくないから膨張系の色は腫れぼったい感じになるので、少し小さく見られるくらいの寒色系がいいのよ。ちょっといい?」
そういうとミリヤさんは奥にある鏡台の前に私を座らせ、メイクを始めた。
素のメイクがあるからあまり出来ないけどと前置きした上で、手際よく肌と目元のメイクを仕上げた。
「どう?」
鏡の中の私は見違えると言ったら大袈裟だけど、確かに可愛く見えた。
「あなた、元がいいから。」
そう言ってミリヤさんはにっこりと笑った。
あっという間に予定の40分が過ぎて占い部屋を後にした。
しかし、タロットカードこそ使ったが、後半は占いというより、コンサルというか、プロデューサーというか、これからの生活においてやるべきことを導いてくれたという感じで、全く占いぽくなかった。
けれど、とりあえずは言われたことを守ろうと思い次の朝からリンゴを食べ、化粧はファンデを薄めにチークを入れて、目元は涼しげなシャドウにして、今持っている中では、最も短いスカートを履いて、左手首に紫のシュシュを巻いて出かけた。
自分でも素直過ぎると思ったが、これで運が向かなきゃ諦めもつくし、何よりミリヤさんのことは根拠はないが信じられる気がした。
通勤途中、何となく人に、いや特に男性に見られてる気がした。
スカートが短いからか、いや、このスカートは何度も履いたことはある。
メイクが目立つ?
確かにいつもとは少し違うけど、こんな急激に変化するわけないし。
でも、確かに視線を感じる。
しかも道行く人、電車の中、おまけに会社のエレベーターの中まで、確実に見られている。
「おはよう!ユウキ、昨日占いどうだった?」
美希が早速聞いてきた。
「なんか…効力あるみたい。」
そう言って今朝の男子目線?の話をした。
すると美希は私から少し離れて、私のことを下から上に視線をゆっくり移動させた。
「確かに、ちょっといつもより、可愛い気がする。」
「何その言い方、いつも可愛くなくてすみません!」
「いやいや、まぁ、お世辞じゃなくてユウキは可愛い、ただその可愛さは所謂小動物の可愛いさと同義だったんだけど…。」
「はい?なーにそれ!」
「まあ、最後まで聞け、今のユウキはなんかちょっと…色気を感じる。」
「マジ⁈色気、出てる?」
「出てる。」
「わーい!やっぱミリヤさん、あ、占師さんね。すごいわ!」
そして、昨日の占いの一部始終を話した。
「へぇ、コンサルね。確かにユウキがプロデュースされた感じ。」
「でしょ、なんかちょっと自分でもいつもと違うって感じはあったのよ。そしたら世間の反応まで違った。マジすごいよね!」
「うん、すごい、私もミリヤさんに会いたい。」
美希はそのあとすぐ予約を入れようと連絡したが、予約は3カ月後だったと嘆いてた。
本当はもっと余裕を持って着く予定だったのに、帰り際にバカ課長が、用事を言いつけてきたため、ギリギリになってしまった。
少し息が切れていたが、ビルに入るとエレベーターがあり、五階に部屋があると書かれていた。
エレベーターの中で息を整え、深呼吸をしたところで、ドアが開いた。
想像では、なんかインドの寺院のような煌びやかな部屋(かなり偏ったイメージ)かと思ってたが、ただのオフィスビルの体裁で、少し廊下を歩いた一番奥にその部屋はあった。
ノックをすると中から返事があり、ドアがゆっくりと開いた。
「あ、予約した糀谷です。」
出てきたのは、割とカジュアルなパンツと短めのジャケットを羽織った見た目三十代(私より少しだけ年上?)の女性が出てきた。
「初めましてミリヤです。」
正直驚いた。
全然占師らしくない。
その辺を歩いていればなんのオーラもない、OLに見える。
いや、最初ドアを開けてくれた時は占師の秘書かなにかと思ったくらいだ。
「メールで大体のことはお聞きしてます。どうぞお座りください。」
物腰も柔らかく、所謂マンガやテレビに出る有名占師のような威圧感も全くない。
勧められて座るとミリヤさんは少し奥にある丸見えの台所でお茶を入れ出した。
さっきよりは少し大きめの声で
「こちらはなんで知ってくださったの?」
「あ、えーと友人の勧めで。」
「あら、そう。ご友人がいらしたことあるの?」
「あ、いえ、友人とは別の知り合いにこちらに来たことがある方がいて、友人はその方に当たると聞いたと言って私に勧めてくれました。あ、ややこしくてすみません。」
「あー、要は誰かこちらにいらした方が話を広めてくれたのね。」
これ以上説明するとややこしいので、イエスと返事をした。
お茶を二人分入れるとそれを持って席に付いた。
言ってはなんだが、座った机もただのテーブルに白いクロスがかかっているだけで、普通に人の家に来た感じだ。
「あ、今、なんか殺風景、とか思ったでしょ?」
突然の指摘に慌てた。
「やっぱ、当たりね。」
そういうとミリヤさんはケタケタと笑った。
「大抵初めて来る方は皆ほとんど同じ反応ね。そして次は少し不安な顔をするのよ。」
「…?」
「本当に当たるのか不安になるってこと。」
「あー。」
思わず声を上げてしまった。
また、ミリヤさんはケタケタと笑う。
「そりゃそうよね。ちっとも占師ぽくないし、雰囲気も無いし、これで40分で5000円も取られるんだから、不安になるわよね。」
正直今言われて不安になった。
「さて、前置きはこのくらいにして、本題に入りましょうか。」
彼女は席の横の引き出しからタロットカードを取り出した。
聞いた通りタロット占いのようだ。
彼女の目つきが変わり、無言でカードを並べて出し、いくつかをめくって、残りのカードを傍らに置いた。
「あなたの付き合った男性は5人、一番最初は高2の時ね。相手は…他校の男子で、あ、でも付き合ったのは2週間くらいで、儚い恋に終わったのね。」
驚きのあまり声が出なかった。
同時に背中に一筋の汗が伝った。
「次は二十歳の時、この彼はいわゆる『初めて』の男性ね。こちらは一年近く付き合ったけど、彼から別れを切り出された。」
そのあと残り3人との成り行きも全て正確に答え
「あ、つい最近も付き合いそうになって…でも相手から断られた人がいるわね。」
正直もういいです、と言いそうになった。
驚きを通り越して過去の苦い思い出が次々蘇り、不快な気持ちになっていた。
「あ、ちょっと不快な気持ちにさせたわね。ごめんなさい。一応すべてを辿っておかないと、次の策が立てられないからね。」
「次の策?」
思わず聞き返してしまった。
なんか占いというより、コンサルに仕事の戦略を立てられているような気分になった。
「そう、恋愛もビジネスもある意味戦略が必要、そのためにはまず己を知ること。次に相手のことを知ること。それを元に策を立てて、あとは実行する。」
「そういうもの…ですか。」
「そういうもの…よ。」
彼女はそれほど化粧も濃くなく(いわゆる占師にありがちな魔女メークではなく)
威圧感もないが、その目力と優しい笑みにとても魅力を感じた。
「出たわ。」
再びタロットをいじっていた彼女が手を止めて言った。
「明日から、必ず紫の物を身に付けるか携帯してください。」
「紫のもの…ですか?」
いきなり占いらしくなってきた。
「そう、紫のもの、なんでもいいんだけど、例えば髪飾りでも、アクセサリーでも、場合によっては腕に紫のゴム紐を巻いててもいいのよ。」
「ゴム紐…ですか。」
ちょっといい加減と感じた。
「次に、朝はパン食?」
「あ、はい、時々ごはんも食べますが、ほとんどパン食です。」
「じゃあ、その時果物は食べる?」
「はい、時々」
「できたら、明日から必ずリンゴを食べて、一切れでもいいから。」
「リンゴ…ですか?」
「嫌い?」
「いえ、どちらでもないです。」
「じゃあ食べられるわね。食べてね。」
結構強引?
「あと、服装はスカート派?パンツ派?」
「私ご覧の通り背が低いので、割と丈の短いスカートを履くことが多いです。」
実はこれにはエピソードがある。
元々スカートを多用していたが、2年前くらいまでは、膝丈の今考えると中途半端な長さのスカートばかり履いていた。
足がそんなに細くはないし、当然長くもないから短いスカートは正直恥ずかしく、かと言ってパンツも長さが出せないためシュッとした感じにはならないから、パンツは一時流行ったバギーパンツ、裾広のフレアパンツも試したがしっくり来ず、ワイドパンツに至っては袴のようだと感じ試着だけでやめた。
そんな時、当時付き合っていた(期間6か月)彼氏に
「ユウキは短めのスカートのほうが似合うよ。」
と言われてその気になって思い切って短めのスカートを履いたところ、周りにも受けが良く、男女問わず褒めてくれた。
それ以来短めスカートを履くようになり、新しく買うものはほぼ短めスカートになった。
「うん、悪くはないわね。でも、あなたが思うほど足は太くないしむしろ綺麗だから、もっと短いスカートでも似合うわよ。」
結構自分では冒険してると思っていたが、さらに短めとなると、もうミニの領域だ。
「あなたの開運ポイントは、脚を出すことよ。」
「えっ?開運ポイントですか?」
「そっ、開運ポイントは脚!」
「えー自信無いです。」
「大丈夫!とにかく1週間でいいから今より少し短めのスカートを履いて、色はなるべくパステル調で、白でもいいわ。黒や茶色の濃い系はダメ。とにかく試してみて。」
ちょっと戸惑ったが、一応メモはした。
「最後はメイクね。」
「はい、どうすれば?」
「あなた色が白いからその素肌を生かしたほうがいいわ。」
「あ、でも、実はそばかすが多くて、結構ファンデは厚塗りしてます。」
「うん、わかる。そこは隠したいと思うけど、下地である程度隠して、パウダーファンデーションは肌に近い色を薄く塗って、頬にはチークも入れて。」
「チークですか…あまりしたことないですし私丸顔なんでオカメにならないですかね。」
「貴方みたいな肌の白さは赤めのチークで仕上げると少し上気したような雰囲気になって色気が増すのよ。」
色気?ほとんど皆無と自覚してる。
「あと、アイシャドウはあまり濃い色や赤っぽい色はやめて薄めにブルー系を入れた方がいいと思う。」
ブルー系なんて持ってない。
「貴方の目は小動物系でクリッとして決して小さくないから膨張系の色は腫れぼったい感じになるので、少し小さく見られるくらいの寒色系がいいのよ。ちょっといい?」
そういうとミリヤさんは奥にある鏡台の前に私を座らせ、メイクを始めた。
素のメイクがあるからあまり出来ないけどと前置きした上で、手際よく肌と目元のメイクを仕上げた。
「どう?」
鏡の中の私は見違えると言ったら大袈裟だけど、確かに可愛く見えた。
「あなた、元がいいから。」
そう言ってミリヤさんはにっこりと笑った。
あっという間に予定の40分が過ぎて占い部屋を後にした。
しかし、タロットカードこそ使ったが、後半は占いというより、コンサルというか、プロデューサーというか、これからの生活においてやるべきことを導いてくれたという感じで、全く占いぽくなかった。
けれど、とりあえずは言われたことを守ろうと思い次の朝からリンゴを食べ、化粧はファンデを薄めにチークを入れて、目元は涼しげなシャドウにして、今持っている中では、最も短いスカートを履いて、左手首に紫のシュシュを巻いて出かけた。
自分でも素直過ぎると思ったが、これで運が向かなきゃ諦めもつくし、何よりミリヤさんのことは根拠はないが信じられる気がした。
通勤途中、何となく人に、いや特に男性に見られてる気がした。
スカートが短いからか、いや、このスカートは何度も履いたことはある。
メイクが目立つ?
確かにいつもとは少し違うけど、こんな急激に変化するわけないし。
でも、確かに視線を感じる。
しかも道行く人、電車の中、おまけに会社のエレベーターの中まで、確実に見られている。
「おはよう!ユウキ、昨日占いどうだった?」
美希が早速聞いてきた。
「なんか…効力あるみたい。」
そう言って今朝の男子目線?の話をした。
すると美希は私から少し離れて、私のことを下から上に視線をゆっくり移動させた。
「確かに、ちょっといつもより、可愛い気がする。」
「何その言い方、いつも可愛くなくてすみません!」
「いやいや、まぁ、お世辞じゃなくてユウキは可愛い、ただその可愛さは所謂小動物の可愛いさと同義だったんだけど…。」
「はい?なーにそれ!」
「まあ、最後まで聞け、今のユウキはなんかちょっと…色気を感じる。」
「マジ⁈色気、出てる?」
「出てる。」
「わーい!やっぱミリヤさん、あ、占師さんね。すごいわ!」
そして、昨日の占いの一部始終を話した。
「へぇ、コンサルね。確かにユウキがプロデュースされた感じ。」
「でしょ、なんかちょっと自分でもいつもと違うって感じはあったのよ。そしたら世間の反応まで違った。マジすごいよね!」
「うん、すごい、私もミリヤさんに会いたい。」
美希はそのあとすぐ予約を入れようと連絡したが、予約は3カ月後だったと嘆いてた。