小さな傷
今回のこの食事がきっかけで室長とは少し距離が縮まった気がした。
それからほどなく、また残業をしていた日に、2度目のディナーのお誘いがあった。
「室長、前回は全部払っていただいてしまったので今回はちゃんと出させてください。」
前の食事の時におそらくは二人で3万近くを払ってくれている(後日同じ店にランチで言った時、夜のメニューを見せてもらった)から、さすがに今回は甘える訳にはいかないと感じていた。
「そうだね。うんうん。」
と気のない返事をしつつ、連れてきてくれたのは寿司屋だった。
しかも、なぜか、店らしき門前の引き戸を開くとそこからは飛び石が敷かれていて(両側は庭園)十数メートル歩くとようやく本当の店の扉が見えてきた。
入るとなぜか奥の座敷に通され、
「料亭政治か?」
と独り突っ込みを入れてしまった。
「ふう、落ち着くね。」
『いやいや』
心の中で否定しながら
「そ、そうですね。」
と座りの悪さを感じながら正座をしていた。
「あー、そうか、ごめんね。座敷だと足がね。スカートだと崩しにくいよね、前の日にパンツで良いよって言っておけばよかったね。」
『前日から誘われたら変でしょ』
とまた独り突っ込みを入れつつ
「いえ、大丈夫です。」
となるべく顔に出ないように答えていた。
「よかったら、少しは足崩してね。こっちからは腰から下は見えないから大丈夫だよ。」
今までほとんど意識していなかったが、今の言葉で山埜室長の”男”を感じてしまった。
『腰から下は見えない。ということは見えたら見るってこと・・・室長もエッチなこと考えるのか?』
などとくだらない独り言を心の中でつぶやいていた。
今回は日本酒が出てきた。
最初はきれいな切子のグラスに注がれた冷酒だった。
口に含むと日本酒とは思えないフルーティな香りが鼻を突き、飲み込んだ意識がなく喉の奥に吸い込まれるように通った。
「おいしい・・・」
思わず声が漏れた。
「お、それはよかった!」
うれしそうに山埜さんが言った。
前菜に始まり、どれも繊細な造りと味で、ひとつひとつ唸らずにはいられないものばかりで、和食が世界で賞賛されるということが改めて納得させられた。
今回もあまりの食事のおいしさと山埜さんの楽しいトークでお酒が進んでしまい、後半はほとんど夢心地だった。
「さて。そろそろ行こうか。」
楽しい時間はあっという間、時計を見ると9時を少し回ったところだった。
「あ、今回はお支払い・・・」
山埜さんはフッと笑みを浮かべて、先に店の入り口まで歩みを進めていった。
「え、また済ませてしまったんですか?」
追いかけるようについていく私は、不満気に問いかけた。
「ごめんごめん。今度はおごってもらうよ。」
それからほどなく、また残業をしていた日に、2度目のディナーのお誘いがあった。
「室長、前回は全部払っていただいてしまったので今回はちゃんと出させてください。」
前の食事の時におそらくは二人で3万近くを払ってくれている(後日同じ店にランチで言った時、夜のメニューを見せてもらった)から、さすがに今回は甘える訳にはいかないと感じていた。
「そうだね。うんうん。」
と気のない返事をしつつ、連れてきてくれたのは寿司屋だった。
しかも、なぜか、店らしき門前の引き戸を開くとそこからは飛び石が敷かれていて(両側は庭園)十数メートル歩くとようやく本当の店の扉が見えてきた。
入るとなぜか奥の座敷に通され、
「料亭政治か?」
と独り突っ込みを入れてしまった。
「ふう、落ち着くね。」
『いやいや』
心の中で否定しながら
「そ、そうですね。」
と座りの悪さを感じながら正座をしていた。
「あー、そうか、ごめんね。座敷だと足がね。スカートだと崩しにくいよね、前の日にパンツで良いよって言っておけばよかったね。」
『前日から誘われたら変でしょ』
とまた独り突っ込みを入れつつ
「いえ、大丈夫です。」
となるべく顔に出ないように答えていた。
「よかったら、少しは足崩してね。こっちからは腰から下は見えないから大丈夫だよ。」
今までほとんど意識していなかったが、今の言葉で山埜室長の”男”を感じてしまった。
『腰から下は見えない。ということは見えたら見るってこと・・・室長もエッチなこと考えるのか?』
などとくだらない独り言を心の中でつぶやいていた。
今回は日本酒が出てきた。
最初はきれいな切子のグラスに注がれた冷酒だった。
口に含むと日本酒とは思えないフルーティな香りが鼻を突き、飲み込んだ意識がなく喉の奥に吸い込まれるように通った。
「おいしい・・・」
思わず声が漏れた。
「お、それはよかった!」
うれしそうに山埜さんが言った。
前菜に始まり、どれも繊細な造りと味で、ひとつひとつ唸らずにはいられないものばかりで、和食が世界で賞賛されるということが改めて納得させられた。
今回もあまりの食事のおいしさと山埜さんの楽しいトークでお酒が進んでしまい、後半はほとんど夢心地だった。
「さて。そろそろ行こうか。」
楽しい時間はあっという間、時計を見ると9時を少し回ったところだった。
「あ、今回はお支払い・・・」
山埜さんはフッと笑みを浮かべて、先に店の入り口まで歩みを進めていった。
「え、また済ませてしまったんですか?」
追いかけるようについていく私は、不満気に問いかけた。
「ごめんごめん。今度はおごってもらうよ。」