流星の彼女に愛の花束を
リビングに着くと、もう朝食の準備ができていた。
あの後なんだかドキドキしてベッドでゴロゴロしていたら、30分もたってしまったのだ。
食卓をのぞいて、私はちょっと嬉しくなる。
用意された2人分の朝ご飯。昨日の今日の出来事なのに、すんなりと私を受け入れてくれる朔。私、朔に出会えてよかった、と心から思う。
記念すべき第一回目の朝ご飯は、目玉焼きにハム、ワカメのお味噌汁と白いご飯。
それから大きなイチゴ。
「人間の食べ物だ。」
私がつぶやくと、朔は
「はじめての人間の食べ物が普通でごめんね。」
と言った。
でもそれは嫌味とかじゃなく、本当にさらっと言ってきたので、私はそんな事ないよ!と首を横に振る。
「そこまで言ってくれると嬉しい。あ、言い忘れてたけどベッドに宙の着替え置いてあるから。着替えてきちゃいな。」
朔はコポコポと温かいお茶をコップに注ぎながら言った。
「はーい。」
私はルンルン気分でベッドに向かう。
用意してあったのは、グレーのセーターとズボン。
うう、やっぱり大きい。ズボンなんて裾踏んじゃうし。
でも、と私は思った。この大きさが心地いいんだ。安心するっていうのかな。心が安らぐ。
最大限にリラックスできそう、ていうのかな、うん。
勝手に納得して、再びリビングに戻ると、朔が私を見て言った。
「やっぱり大きいな。」
私は言い返す。
「でも私、この感じが好きなの。」
すると朔は私を見て、やっぱりフワッと笑った。
上手く表現できないけど、とても柔らかく笑うんだ、朔は。
「宙、ソファーに座って。」
言われて私はソファーに腰掛ける。
朔が私に近づいてきて、私の前にしゃがんだ。
朔の目線がいつもより近くなって、心臓のドキドキが大きくなって、聞こえちゃうんじゃないかと思ってしまう。
音は隠そうと思うほど大きくなって、私はただ耐えることしかできなかった。
「裾のまくり方教えてあげる。」
朔が言う。
「まくる?」
私が聞くと、朔はうん、と言って私の足に手を伸ばした。踏んづけて引きずっていたズボンの裾を折って、上に巻いていく。
ちょうど私の足首くらいまで巻いて、朔は出来た、と顔を上げた。
足元を見ていた私と露骨に目が合うと、朔は言った。
「引きずってると擦り切れちゃうから、出来ればこうしてね。あと、今度靴買ってくるから、それ履いて買い物行こう。」
「え、いいの?」
嬉しくって、尋ねる声が上ずってしまう。朔は立ち上がりながら、当たり前だというふうに言った。
「家族になるんでしょ。」
「…うんっ!」
嬉しくって、つい顔が緩む。朔はそんな私の頭をポンポンと撫でて、
「朝ごはん食べちゃおう。今日も仕事だ。」
と笑った。
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