敵国騎士と命懸けの恋
幼い頃から敵国である魁王国のことをたくさん聞かされた。どれだけ酷い国か、多くの書籍から勉強をしてきた。私は魁王国の国民よりも、魁王国の歴史を熟知しているだろう。
「やっぱりあなたも煌紫王国が憎いですか?王家に生まれながらも、私は自分の国にそこまで愛着を持っていないし、魁王国のことを嫌いだとも思えない」
男からの答えはなかった。
「でもただ黙って死を待つことは私の性分ではないので、できる限り抵抗しようと思います。うるさくしたらごめんなさい」
「…あんた姫なんだろう。随分と荒い性格だな」
「私は7人兄弟の末っ子ですが、兄や姉は将来、国を背負っていく覚悟ができている立派な方々です…私はおしとやかにできなくて、全てダメな姫で。28歳にもなって、まだ婚約すらしていない周囲に呆れられた姫です。今は息苦しい王宮から飛び出して、乳母の家でお世話になっています」
ああ。言葉に出すだけで、自分がどれだけダメな人間が分かっちゃうな。どうして姫らしくできないのかな。
「最近は開き直り、好きで王家に生まれたわけではないので、自分らしくいこうと割り切ってます」
「そうか」
「魁王国はどのようなところですか?噂通り飛護(ひご)国王は怖い方でしたが…」
「飛護国王は、笑って人の命を奪うようなお方だが。全ては国民のために。ただそれだけだよ」
「…国王としての使命を背負って戦っているのですね」
「ああ」
私の住む煌紫(こうし)王国と魁(かい)王国。
河を挟んで向かい合う2つの国はもう100年以上も冷戦状態が続き、いつ剣を交えることになってもおかしくない状態だ。
決して分かり合えないわけでないと思うけれど、それほど外交は簡単なものではないと兄が言っていた。そういうものかな。