別れても好きなひと
「杉崎先輩」

私は後輩の塚山渚に呼ばれて帰りに食事をすることになった。アシスタント時代から可愛がっている後輩の誘いに先輩気分で食事していると後輩が本題を切り出した。

「杉崎先輩は倉科店長と結婚してたんですよね?」
「ぶっ!」

突然の話題に私はビールを吹き出した。

「先輩っ大丈夫ですか?」
「ごめん。大丈夫大丈夫。」

私が吹き出したビールを一緒に拭きながら後輩は恥ずかしそうに話を始めた。

「好きになっちゃったんですよね、私。かっこいいし身長が高くてスタイルもいいし。なにより優しくて面倒見もいいじゃないですか。」
「う、うん。」
返事に困りながら相槌をうつと私の目を後輩じっと見つめた。
「お客様からもスタッフからも店長の人気はかなりあって。私、告白しちゃおうかなって思うんです。この仕事ってやっぱり不安じゃないですか。接客業だし、店長もてるし。ダメでもいいから言いたいんです。」
若いなぁと思いながら頷くと
「離婚の原因てなんですか?」
「へ?」
「よほどなにか変な性癖があるとか、浮気性とかだったらなぁって思って。」
直球過ぎだろ!と心で突っ込みながらあまりに一生懸命な後輩の表情にそんなことを言える雰囲気ではないと察した。
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