オネエが野獣になるときは。


ゾクッ


「い、いきなり近付かないでください!」

「あら、支倉ちゃん顔真っ赤。かーわいいー」


そりゃこんな整った顔がいきなり真ん前にいるんだもん。

…いくらオネエでも照れないわけないじゃないか!


「とにかく、今日は私の家よ?あなたの家の鍵はもう使えなくなってるし」

「そんな勝手な…!」

「それじゃ、用は済んだから仕事に戻りなさーい」

「ちょっと、社長…!」


社長の用は済んでも、文句のひとつやふたつ言ってやらないと私の気が済まない。


「…それともなぁに?」


だけど、彼はいつも私より何枚も上手。



「私とイケナイ事しないと…満足しない?」

「…っ、失礼します…っ!」


オネエだから心配ないって…

一番久我社長が危ないんだって!!


「ふぅ」


身の危険を感じた私は慌てて社長室を飛び出てため息をひとつ。




「…本当に可愛い」


だから、勢いよく閉めた扉の音にかき消された声を私が耳にすることはなかった。
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