Q. ―純真な刃―
ここはどこ
幽霊屋敷も同然な見た目の洋館の中は、まったくの別世界。毎晩舞踏会でも催しているような豪華絢爛な景色が広がっていた。
夜であることも忘れてしまうきらびやかなシャンデリア。
レッドカーペットの敷かれた大階段。
細かな彫刻のほどこされた柱や壁。薔薇の香りは変わらず漂っている。
単なる玄関ホールだけでも、十分ひとり暮らしできるほど広い。神雷のメンバーであろう20名弱が集まっていても、まだ走り回れる余裕がある。
子どもの遊び場にしては贅沢すぎる。
ましてや不良のたまり場と化しているなんて、不相応にもほどがある。
けれども、自らを神と称する彼らは、当たり前のように棲みつき、ここら一帯ごと支配している。
ここは、女王の城。
何人たりとも壊せない、茨の要塞。
「表の野郎どもはどうします?」
開口一番、ひとりの少年が女王に問いかけた。
青みがかった灰色の髪をオールバックにし、両耳にはジャラジャラのピアスをこれみよがしにつけている。
白Tにジーパンというラフな恰好をしながらも、ガタイのよさがわかりやすく表れていた。
「千間さんに受け渡して」
「おっ。てことは?」
「当たりよ」
女王の返答に、少年の釣り目がちな瞳がわずかに開かれる。
「単なる度胸試しじゃなかったのか」
「直接交渉したそうよ。赤い爪の男と、ね」
「ふーん……」
「最近武器の流通が激しかったのは、十中八九その男が原因のようね」
「……邪魔だな」
「そうね。武器商人の目当ては何なのかしら」
「いやそっちじゃなくて」
少年の向く先には、
「こいつが」
扉の前で立ちすくむ、成瀬がいた。
「部外者がいちゃ話しづれぇんだけど」
そんなことを言われても、成瀬にはどうしようもない。
逃げたくても、逃げられない。
成瀬にも事情がある。自分にもよくわからない、監督の意向が。
いっそ「帰れ」と追い出してくれたら免罪符になるのに、と少しばかり期待していると、すべて見透かすように女王が笑みをたたえた。
「あら。部外者じゃないわ」
「どういうことすか」
「新しい下僕よ」
「は!?」
「っ!? はああ!?」
誰よりも成瀬が一番驚いていた。
悪魔だ。
さっきのは悪魔の笑みだったのだ。
「誠一郎さんからお願いされているの」
その名が出た途端、周りがざわめいた。
「ここでしばらく世話してやってくれないか、と」
まるで子猫を預けるような言い方だ。
預け先を間違っていないだろうか。
演技指導のためであろうことは、成瀬もなんとなく察している。が、それならなおさらここではないだろう。ぜったい。
こんなところで何をさせようとしているのか。
やっぱり監督の考えが読めなかった。