Q. ―純真な刃―
「とにかく! ボクはキミに会えて本当にうれしいんですよ!」
本当です! 本当に本当なんです!
と、マッシュヘアの少年がきらきらな眼差しで念を押す。
「セーイチロー殿からまたとないご依頼ですし、受け入れる以外の選択肢は毛頭ありません。ねっ?」
「……」
「ですよね?」
「……まあ」
観念したようにオールバックの少年から同意が漏れた。
マッシュヘアの少年は得意げに笑う。
「時代を超えて、あの“侍”とご一緒できることを幸せに思います。ぜひとも、撮影現場でのセーイチロー殿のことを詳しく聞かせてくださいね!!」
(最後のが本音か……?)
欲望に忠実なひと言に気を取られ、成瀬は危うくスルーしかけた。
ここに世話になることが確定していることを。
いまだに監督の考えはわからないが、本当にこのままでいいのだろうか。
ふつうに生きて、ふつうに暮らしていたい。そんな理想とは縁遠い世界。
成瀬は言葉がまとまらないまま、口を開いた。
瞬間。
「よかったわね、無事に迎え入れられたようで」
りんと鳴る鈴の音のような声に、射抜かれる。
脳の信号がぴたりと止まり、何を言おうとしたのか忘れてしまう。
何も言えなくなる。
女王と向き合うだけで、心臓が締め付けられる。
シャンデリアの光を一身に受けた髪を耳にかけ、紅のあでやかな唇をおもむろにゆるめ、陰りを帯びた瞳で鋭く見下ろす。
一挙手一投足から、薔薇の香りがした気がした。
女王が成瀬のいるほうに向けて手招きをすると、即座にオールバックの少年とマッシュヘアの少年が動いた。
オールバックの少年は成瀬の首根っこを、マッシュヘアの少年は成瀬の両腕をつかみ上げる。
「は!? 何!?」
「いいから」
「行きましょう!」
「はあ!?」
力技であっという間に女王の御前に連行された。
神雷メンバー一同、献上品を差し上げるように頭を下げた。状況がつかめない成瀬の頭も、オールバックの少年に無理やり下げられる。
さっきとはまたちがう静けさ。
ほどよい緊迫感が地肌を痺れさせる。ちょっとした息遣いもためらってしまう。
不満を包み隠さず出していたオールバックの少年も、オタク特有の語りをしていたマッシュヘアの少年も、女王の前ではまるで別人だった。
ぞっとするほど真剣な面持ち。
今の二人は、大尊敬の先代のことなどまったく頭にない。
我らが女王が、すべて。
命に従い、かしづくのみ。
ほかのことは、どれだけ大切でも、二の次だ。
『新しい下僕よ』
成瀬の脳裏に、言葉が反芻する。
それはきっと比喩でもなんでもない。
ここにあるものはすべて、女王の支配下なのだから。