Q. ―純真な刃―
汰壱も成瀬と同じく、在学組にあたる。
「そういや、あんたも、高1って……」
「Yes」
「でも……その制服……」
胸元にエンブレムの入った、淡いクリーム色のジャケット。
モカ色のズボン。
青いネクタイは、下にいくにつれ透過し、やわらかなひだを施されている。
全体的に硬めの生地で作られ、丈夫で、型崩れしにくい。
その制服は全国的に知名度が高く、憧れの制服ランキングでは毎年上位にランクインしている。
成瀬も当然認知していた。
治安が悪いことで有名な地元ではめったに見かけることがない。
ましてや不良とは、天と地ほどかけ離れた世界にあるはずの、学校。
「あれ? 言ってませんでしたっけ。ボク、白薔薇学園の特待生なんです」
日本随一の名門進学校、白薔薇学園。
偏差値、教育方法、設備、すべて国内最高峰。入学できれば人生成功者ともいわれる、超難関高校である。
なぜ、その制服を、汰壱が着ているのか。
なぜ、こんなところに。
副総長であるゆえんを納得できても、理解できない。
神雷に格差がなくとも、世間的なヒエラルキーではかなり上部に君臨しているだろうに。
「あ、頭、いいんだ……?」
「それほどでもないです。ボク、アメリカ育ちなんですが、あっちの学校でたまたまトップの成績を取りまして。それでたまたま白薔薇学園から招待を受け、高校3年間は日本で勉強することになっただけですよ」
「だけってことねえと思うけど」
どちらかといえば汰壱はバカ寄りだと思っていた成瀬は、意外なギャップにびっくりしていた。
たまたまで入学できる学校ではないことくらい、バカでもわかる。
しかも、そこの特待生であれば、学校内でもさらに頭ひとつ抜けた天才格。努力だけではどうにもできないレベルだ。
そもそも頭の出来がちがうのだろう。
もっとひけらかしても許されるのに、汰壱は一貫として謙遜していた。天然でも皮肉でもない。正当な評価だ。
(ボクよりすごい人もいるんですよ)
世界は広い。
天は高い。
汰壱はそのことをよくわかっている。
「せっかく勝ち組なのに、なんで神雷なんかに……」
「ここは、ボクの聖地だからです」
神雷を見くびる言い方に怒ったりせず、汰壱は潔く断言した。女王にかしづくときと同じ表情をしている。
ここにいることの意味を、覚悟を、とうに理解している。
それでも自分の気持ちに素直でい続ける。
それが汰壱にとって最善であり、最良だった。
「ミスターナルセは……その制服を見るに、どうやら仲間のほとんどと同じようですね」
「え?」
「あっ、ユーキ! Good morning! ミスターナルセがキミと同じ学校のようですよ!」
ダイニングホールに入室しようとしたとき、ちょうど勇気がやってきた。
安っぽいえんじ色のジャケット。
裾に緑のラインの入ったグレーのズボン。
深緑色のネクタイをだいぶゆるく結んでいるところまで、二人はまったく一緒。
地元の公立高校、西高校の制服だった。
「うちにすげぇ奴が入ってきたって噂は聞いてたが、なんだ、お前のことか」
「はぁ……西高メンツ多いとか聞いてねー……」
「お前、何年だっけ?」
「……1年」
「俺、2年。ちゃんと敬えよ」
「口だけでよければ」
仕事で学校にいる時間の少ない成瀬と、留年しない程度にサボっては遊びほうける神雷メンバー。
両者ともに基本、他人に興味がないからか、これまで奇跡的に学校で関わるどころかすれちがうこともなかった。
いきなり先輩後輩と言われても実感は湧かない。親近感とかも特にない。
二人は静かに睨み合った。